復興事業新図録

防潮堤のないまちづくり(女川町かさ上げ盛土)

あの日、ラジオが「壊滅状態」と伝えた女川町。何もなくなったからこそ、また必ずやってくる災害に抗えるまちづくりに一から取り組みました。海と分断されるのではなく、これからも海とともに生きていく決意を胸に。

マリンパル女川周辺
女川駅周辺

震災当時の状況

リアス式海岸がつくる深くて静かな海と山に囲まれた女川町は、全国でも有数のサンマ水揚げ港として知られ、三陸の豊かな海がもたらす銀ザケや、カキやホタテ、ホヤなどの養殖も盛んに行われていました。東日本大震災が引き起こした津波は最大津波高14.8m(最大浸水高18.5m、最大遡上高34.7m)にもなり、女川の町を襲いました。死者・行方不明者の数は800人以上に及び、その暮らしは一変しました。

震災からわずか1ヶ月後、商工会や観光協会、魚市場買受人協同組合など町の産業界が中心となって、女川町復興連絡協議会が発足しました。壊滅的な町の状況から、復興には時間がかかると判断した協議会の代表は、設立総会で「還暦以上は口を出さず、側面支援に徹する」と表明しました。世代や業界の垣根を超え、100年先の子どもたちが誇れるまちづくりを目指して、30~40代の若手が中心を担いました。協議会が町と町議会に提出した「復興提言書」は女川町の復興計画に盛り込まれ、復興まちづくりに大きく貢献しました。

復興計画のイメージ図(平成23年9月 女川町)

安心・安全な港町をめざして

5つの柱からなる「女川町復興計画」は、震災からわずか半年後の2011年9月に町議会で可決されました。これは同年8月に作成した岩沼市に次ぐ2番目の早さでした。「とりもどそう 笑顔あふれる女川町」を基本目標として、その復興方針の1番目には防災に関する「安心・安全な港町づくり」を掲げました。

津波で壊滅的な被害を受けた女川の町を一から再建するために、震災の教訓を踏まえ、どの土地にどんな施設を配置し、どのような役割を持たせるかを検討しました。それが「復興構想ゾーニング」の4つの考え方です。

この考え方に基づき、女川町は災害による被害を最小限に減らす「減災」に取り組みました。「減災」を実現するには、人とインフラのどちらにも災害に対する意識が必要となります。女川町では防潮堤や耐震構造などの“構造物”によるハード面の災害対策と、ハザードマップや防災学習といった“情報や訓練”で得られるソフト面の災害対策に取り組みました。

町全体を防潮堤の高さに

海と共に生きてきた女川町民たちにとっては、海が見えない景観は耐え難いものでした。また防潮堤によって海や川が見えなくなってしまうことは、幾度となく地震や津波に襲われてきた町にとって、その変化がわからない危険性もありました。

「防潮堤のない町」と表現されることがありますが、女川町ではハード対策として土地全体をかさ上げし、町そのものに防潮堤の機能を持たせました。町の中心部である「シーパルピア女川」や「地元市場ハマテラス」などの商業エリアはL1津波※1の被害を受けない標高5.4m以上の高さに配置。居住地は、東日本大震災と同じレベルのL2津波※2に対しても津波の被害を受けない、標高20m以上の高台に配置しました。日中はもちろん夜間に地震が起きたとしても、町そのものが津波から命を守ってくれるのです。

これはスーパー堤防(高規格堤防)と言われ、「堤防」とは呼んでいますが、実質的には低い土地を盛り土して、川や海を見下ろせるようにする高台造成事業でした。原点は、度々高潮の被害に遭ってきた、東京の葛西臨海公園のある葛西地域の造成事業にありました。JR女川駅前から続くプロムナードは、海に向かって緩やかに下っており、その先には「東日本大震災遺構 旧女川交番」があります。震災前の地盤の高さから、復興事業で造形した地盤の高さまでのスロープが設置されており、盛り土によって土地全体をかさ上げしていることが実感できます。

※1 数十年~百数十年に一度の頻度で再来する津波 ※2 数百年から千年に一度程度の、極めて低頻度で発生する津波

シーパルピア女川
地元市場ハマテラス
旧女川交番

堤防のないまちで、これからも海とともに生きる。

女川町の中心にあるJR女川駅の最上階にある展望デッキから、まっすぐに海へと向かうレンガ道の商業施設「シーパルピア女川」の向こうに、海から昇る初日の出が見えます。女川湾に昇る美しい初日の出を遮るものは何もありません。東日本大震災以降、多くの被災地沿岸部には高い防潮堤が建設され、海を臨むことが難しくなりました。しかし女川では、町の中心部からいつでも海を見ることができます。海とともに生きてきた人々が、海の存在を最大限に生かすための景観づくりを進めたこと、そして未来の子どもたちへ誇れるまちづくりを目指した想いが、この景色の中で息づいています。

JR女川駅展望デッキからの眺め